血中の中性脂肪値が高いということは脂質異常症の状態の一つですが、LDL-コレステロール値の高いタイプの脂質異常症であれば動脈硬化につながることが理解できても、どうして中性脂肪値が高いことが問題になるのか、納得できない方も多いのではないでしょうか?
動脈硬化と中性脂肪との関係をまとめつつ、改めて予防についても考えてみたいと思います。
動脈硬化はどうやって進むのか
動脈硬化は次のようにして、進行していきます。
STEP1:LDL-コレステロールが血液中で過剰になって動脈の内皮細胞を傷つけ、LDL―コレステロールがしみ込んでいき内膜にたまります。
STEP2:血管内膜にたまったLDLや小型高密度LDLが、活性酸素によって酸化されたり変性したりして、酸化LDLになります。
STEP3:酸化LDLを排除するために血液中の免疫細胞「単球」を呼び寄せます。
STEP4:単球が成熟してマクロファージ(体内にある細菌や異物を処理する働きのある細胞)になり、酸化LDLを取り込みます。
これによってマクロファージが炎症を起こして、取り込んだコレステロールでどんどん膨れ上がり、内膜にたまります。
マクロファージがどんどん膨れ上がると自壊して塊のような「脂質プラーク」になります。これが「アテローム性動脈硬化」です。
STEP5:脂質プラークの炎症がさらに強くなって皮膚が破裂し、それを修復するために血小板が集まってきます。
これが血の塊の「血栓」となって、血液の通り道を塞いでしまい、血液が流れなくなってしまいます。
心臓の冠動脈でこのようなことが起これば「心筋梗塞」、脳の動脈で起これば「脳梗塞」となってしまいます。
動脈硬化と中性脂肪の関係
動脈硬化の進行のSTEP1で、LDL-コレステロールが内膜にたまるという過程がありましたが、このとき「小型高密度LDL(small,denseLDL(sdLDL))」というふつうのLDLよりも血管にしみ込みやすいという特徴を持ったものが存在します。
小型高密度LDLは、「超悪玉コレステロール」や「超悪玉LDL」とも呼ばれていますが、この小型高密度LDLは、中性脂肪が増えすぎたときにできるものなのです。
小型高密度LDLでは、ビタミンEが少なくなります。ビタミンEは抗酸化作用を持つ栄養素で血中脂質の酸化防止にも役立ちますが、ビタミンEが少なくなることによってLDL-コレステロールは酸化されやすくなり、動脈硬化の進行も進みやすくなってしまいます。
*小型高密度LDL(small,denseLDL(sdLDL))については、こちらの資料がわかりやすいです。
動脈硬化を防ぐ食生活
動脈硬化を防ぐには中性脂肪値を下げることが効果的であることがわかりましたね。食生活で気をつけたいポイントがいくつかあります。
ポイント1:摂取エネルギーを適正にする
エネルギーが過剰で余ってしまえば、当然肥満につながってしまいます。これは中性脂肪の合成を進めてしまうということです。
ポイント2:栄養バランスを整える
摂取エネルギーは総量だけでなく、内訳の栄養バランスにも配慮します。炭水化物から50~65%程度、脂質からは20~30%程度、たんぱく質からは13~20%程度のエネルギーが摂れるようにしましょう。
ポイント3:脂質の質に注意する
たんぱく質の供給源が肉類に偏ると飽和脂肪酸の摂取が多くなり、LDL-コレステロールが増えやすくなってしまいます。
血中脂質のバランスを整えるうえでは、近年の日本人に不足しがちなn-3系多価不飽和脂肪酸を摂りたいと言われています。
特に、魚油に含まれるEPAやDHAには血管をしなやかにして動脈硬化を防いでくれたり、血栓をできにくくしたりする効果が期待されています。
ポイント4:アルコールの飲み過ぎは禁物
アルコールの過剰摂取は中性脂肪の合成が促進されてしまいます。アルコールは食欲を増進させてしまうので、食べ過ぎにつながってしまう点でも適量摂取を心がけたいものです。
ポイント5:食物繊維を十分摂る
体内の余分なものを排泄してくれる食物繊維は、エネルギーの心配はなく満腹感をもたらしてくれるうえ、コレステロールのコントロールにも役立ちます。
同じ炭水化物でも、お菓子の摂り過ぎで消化の早い糖質の過剰摂取が続くと、中性脂肪が増えやすくなってしまいます。
n-3系多価不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸)を上手に摂ろう
脂質の摂り過ぎに気をつけられるようになったら、さらにもうワンステップ進んで脂質の「質」にまで配慮しましょう。
脂質の質は脂肪酸によって大きく異なります。
血中脂質を考える場合、増やしたくない・過剰な場合は減らしたいものと、減らしたくない・適正範囲で増やしたいものとがあります。
前者の増やしたくない・過剰な場合は減らしたいのが、LDL-コレステロールと中性脂肪で、後者の減らしたくない・適正範囲で増やしたいものがHDL-コレステロールです。
脂肪酸の性質を見ていくと、LDL-コレステロールや中性脂肪は不飽和脂肪酸で減少傾向となります。
ただしHDL-コレステロールとの関係を見ると、n-6系多価不飽和脂肪酸を摂り過ぎてしまうと、HDL-コレステロールまで減らしてしまうのです。
ただし、n-3系とn-6系の多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸と言って、私たちの体内では充分作れないため食事から摂取しなくてはいけない脂肪酸ですので、きちんと摂取する必要があります。
n-3系多価不飽和脂肪酸には魚油に含まれているEPAやDHAのほかに、えごま油やしそ油、なたね油などに含まれているα-リノレン酸があります。α-リノレン酸は必須脂肪酸の一つです。
摂取のコツとしては、日頃のたんぱく質供給源をお肉の回数を減らしてお魚の頻度を上げること。
特に青背の魚にはこれらの脂肪酸が多く含まれています。
その他、えごま油やしそ油といった油を取り入れてみるのも良いでしょう。
これらの油は酸化されやすいため、加熱調理には向いていません。サラダのドレッシングにしてみたり、料理の仕上げにひとたらししてみたりする方法が良いでしょう。
また、保管の際も密封して冷暗所に置き、酸化しないように注意することが必要です。
まとめ
LDL-コレステロール値が高いと動脈硬化が進行するということはご存じの方も多く、血液検査の結果にもナイーブになりがちなのに、中性脂肪値にはちょっと鈍感で「ちょっと脂物を食べ過ぎたかな」程度の感想しか持たないものです。
でもこれはとても危険!中性脂肪値が高値であることも動脈硬化の進行に直結していることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
適正なバランスを保つ考え方は、中性脂肪についてもLDL-コレステロールにしても大きく違いません。
正しい食習慣を身につければ、両者を整えることにつながるわけですから、ぜひ取り組んでみていただきたいと思います。
この記事を書いた管理栄養士さん
名前:Chika
保有資格:管理栄養士
フリーの管理栄養士。食関連資格の教材作成や専門学校講師などの仕事をしています。