中性脂肪を下げるためには適正なエネルギー摂取と栄養バランスよく食べることが基本になりますが、どんな脂肪を摂るか、つまり脂肪の質を考えて摂取することで、中性脂肪をより効果的に下げることができます。
そこで、中性脂肪を下げるために必要な脂質はどのようなものか、みていきたいと思います。
脂肪と脂肪酸について
脂肪とは、一般に中性脂肪のことを差すことが多く、肉や魚、食用油など食品中の脂質や体脂肪の大部分はこの中性脂肪です。
脂肪は内臓脂肪や皮下脂肪などに貯蔵されている重要なエネルギー源であり、その構造はグリセロールで脂肪酸が三本束ねられた構造をしています。この脂肪酸は一本の炭素骨格の端にカルボキシル基が1個ついた構造をしていて、炭素鎖の長さや二重結合の数、位置によって多数の種類が存在します。
一つの種類の油脂は平均20種類の脂肪酸から構成されており、油脂ごとに構成脂肪酸の特徴が異なります。その脂肪酸の構成が油脂の質と関わっていると言えるでしょう。
必須脂肪酸について
脂肪酸のうち、ヒトの体内で合成されない脂肪酸を必須脂肪酸といい、食物から摂取しなければいけません。リノール酸、α‐リノレン酸、アラキドン酸がこれに該当します。
必須脂肪酸を食物から体内に取り込むと、体内酵素の働きによって炭素数の延長、二重結合の付加が繰り返され、次々と異なった脂肪酸に代謝されます。中性脂肪を下げることで注目されているDHA、EPAは、体内ではα‐リノレン酸から合成することができます。
脂肪酸の働きは脂肪の材料となるだけでなく、生理活性物質に変化して生体機能を維持するなどがあるため、必須脂肪酸が欠乏すると全身的に症状として現れます。そのため、食事のエネルギーを抑えようとするあまり、体にとって必要な脂肪酸まで不足しないように注意するようにしましょう。
動脈硬化学会が出しているガイドラインでは脂質は摂取エネルギーの20~25%とされていますが、これが20%以下になると炭水化物等、他の栄養素とのバランスの崩れが生じ、15%以下になると必須脂肪酸であるリノール酸不足の危険性も生じてくると言われています。脂肪は質を意識しながら、必要量を摂取することが大事です。
どの食材の脂肪を摂るべきか?
上記で述べた必須脂肪酸であるリノール酸、α‐リノレン酸は植物油、豆製品等に含まれています。アラキドン酸は卵、肉、魚に含まれているので、このことからも、動物性食品、植物性食品のどちらも摂取することが大切と言えるでしょう。
ですが、バタやラードのような動物性油脂にはコレステロールを増加させる作用を持つ飽和脂肪酸が多く含まれています。動脈硬化性疾患予防のためにも、調理するときには主に植物性油脂を使うほうがよいでしょう。
また、DHA、EPAは、中性脂肪を下げる働きがありますので、これらが含まれる魚を食事に取り入れることが大切です。
そして、α‐リノレン酸、DHA、EPAはどれもn-3系不飽和脂肪酸ですが、このうちα‐リノレン酸には中性脂肪低下作用などは現時点で信頼できる科学的根拠・データがありません。ですが、必須脂肪酸としての役割を考えれば、これらのn-3系不飽和脂肪酸を摂取することは非常に大切と言えるでしょう。
飽和脂肪酸はどのくらい摂ればよいのか?
肉類やラード、バターなどの乳脂肪に多く含まれている飽和脂肪酸はコレステロールを増加させる作用があります。
中性脂肪が高いだけという方も、動脈硬化性疾患予防のために、ガイドラインに従って総エネルギー比4.5%以上7%未満を目指しましょう。
1日の摂取エネルギーの目標量が2000kcalの場合は、そのうち90~140kcalを飽和脂肪酸で摂取する形になり、脂質は1g9kcalなので10~15.6gを目安に摂取することになります。
バターで例えるならば大さじ1程度が目安になりますが、この飽和脂肪酸は前述の通り、肉や乳製品にも含まれているので、これらの食品の摂取量も考慮することが大切です。
市販の洋菓子類などにはバター、生クリームなどから多くの飽和脂肪酸を含んでいる傾向があるので、こういった加工食品にも気をつけましょう。
不飽和脂肪酸はどのくらい摂ればよいのか?
動脈硬化性疾患予防ガイドラインではn-3系不飽和脂肪酸の積極的な摂取を推奨しています。厚生労働省が出している食事摂取基準2015では、性別・年齢ごとに目安量が策定されていて、30~49歳男性では2.1g/日、50~69歳男性では2.4g/日となっています。
n-3系不飽和脂肪酸の中には魚油に多いDHA、EPAだけでなく、植物油に多く必須脂肪酸でもあるα-リノレン酸もこれに該当します。
一つの食品に色々な脂肪酸が含まれているので、きっちりと基準を満たそうとするのは難しいところがありますので、あまり深く考えすぎず、「油を使うときは植物油にする」「魚、特に青魚を意識して献立に取り入れる」などを心がけるようにしましょう。
ちなみに、DHA、EPAの両方を豊富に含む、さばを一切れ(60g)食べると、それだけでこの食事摂取基準を満たすことができます。ただし、さばのような脂質が多い魚は、エネルギーも高いので、一日の摂取エネルギーも考慮しながら取り入れていきましょう。
<参考資料>
『食品成分表2015』(女子栄養大学出版部)
『基礎栄養学』五明紀春(朝倉書店)
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012(動脈硬化学会)